2022年9月12日(月)

「野口のドブ川」2022/09/13  pastel on paper © KYOHEI SAKAGUCHI

 午前3時に起きて書斎へ。今日からまた新しい生活が始まる。ワクワクしている。まずはPOPEYEの連載原稿を書いた。まだ締め切りでもないのに書いた。そんなことも珍しい。しかも、いつも頭の中にあることをそのまま勢いで30分くらいで7枚書いて完成させて0円ハウスを出版する直前からの付き合いである編集者、井出くんに渡すのだが(ということは井出くんは僕と今も付き合っている編集者の中で一番古株ということなのか、そのことも考えたことがなかった)、どうやらこのステージの原稿の書き方はちょっと違うらしい。あれこれ書いたり消したり、ああしたい、こうしたい、なんだか、本を書くことが好きで、自分で、学校にも行かずに、進む道を知り、誰からも教わらずに、本を書き始めた子供みたいに楽しいと感じた。書いている内容にも変化あり。5枚くらい書いて、時間がきたので、2時間で書斎を出ることにした。書くことが楽しい。ゆっくり仕上げていこう。一気に書かなくなっている。

 おそらく2022年9月9日に僕の体はまたメタモルフォーゼして新しい段階に入ったらしい。10年以上も続けてきた僕の大事な仕事でもあるいのっちの電話を一時休止状態にすると伝えた。同じく2011年から本格的に使うようになったtwitterも、僕が直接書くのではなく、museumスタッフの子に任せることにした。これで僕は携帯電話をずっと持っている、という状態から、完全に脱却できる。それをやってみたいと思ったのである。それで何をやるのかというと、とにかく、毎日を、その時間を、体で感じて、そして、僕が大好きな家族、フー、アオ、ゲンとゆっくり過ごしたいと思ったからだ。

 で、家に帰って、朝5時に起こしてくれと言われていたので、アオを起こす。アオは今、14歳。テスト期間中である。アオは僕が教えた、スケジュール表の立て方を参考に、塾にも行かずに、自分で勉強している。これは「中学生のためのテストの段取り講座」という本にもなった。僕はアオが大好きだ。アオは真面目だから、スケジュール通りに進んでいないからって、昨日の夜ちょっと不安になっていた。少し焦っているように見えたから、僕はすぐ寝ちゃったらいいじゃんって言った。えー、それじゃあだめだよ、とアオが不安がっている。今、何をしたら嬉しい? 何をしたら楽しい?って聞いたら、占いについて考えたら楽しいって言う。アオは占いが大好きだ。え、じゃあ、僕とゲンを占ってよ~、ってお願いした。アオは嬉しい顔をして、以前、僕の専属の占い師の人タケちゃんから「アオさんに渡してあげてください」ってもらったタロットカードを取り出して、僕とゲンを占った。結果は僕もゲンも「31番 継続」のカードだった。

「怖い」とアオは言った。アオは多分、見えないものが見えている人なのだが、何かが「合う」といつも怖がる。僕は嬉しがる。

「継続ってことは、今のパパのやり方、ゲンが学校に行っている間だけ仕事をして、ゲンが帰ってくる午後3時には完全に仕事をやめて、そこからはゲンの親友として、寝るまで遊ぶ、と言うやり方をずっと継続しなさいってことみたいよ」と言った。それはとても嬉しい。ゲンは僕に「今までいろんな人に出会ってきたけど、親友と呼べる人は、パパと、従兄弟のソウだけ」と言った。それはむちゃくちゃ嬉しい。僕は妹のミホにすぐに電話した。先月熊本に来たのだが、僕が鬱で1秒も会えなかったのだ。

「あのね、ゲンはソウのことが2番目の親友で、一番の親友は僕らしい」

 ミホはそれを聞くと、大きな声で笑った。妹はいつも僕のことをお兄ちゃんじゃなくて、恭平くんって呼ぶ。いつも長い休みになるとミホは子供たち三人連れてジジババの家にくる。そして、息子のソウは僕の家にきて、ゲンと二人で、何時間もゲームをして遊ぶのだ。ゲンは他の子供とはほとんどゲームをしない。レベルが違うと楽しくないからだそうだ。ソウとはその辺のウマが合っているらしい。親友と呼べるような従兄弟がいてよかったよねえ、とミホと話す。

「怖い」とまたアオが言った。どうしたの?

「部屋の四隅を整理整頓すると運気上昇しますって書いてある」

「えっ?」

 僕はゲンと午後3時から遊びまくる生活に変えるにあたって、アオがちゃんが「リビングルームの模様替えをしたい」というので、ソファふたつとダイニングテーブルを組み合わせて、僕とアオとゲンとフーが大好きで毎年必ず泊まりに行く、グランドハイアット福岡の部屋のイメージにしたのだ。そういうレイアウトにすると、居間の四隅が綺麗にあく、僕とアオがこれでいい風が流れそうだよね、って一昨日言ってた。

「怖くないじゃん!、すごい、でしょ! あなた占い師じゃん」

 僕はアオに言った。アオは自分のカードも引いたみたいで、そこにはハグをすると運気上昇すると書いてある。

「ハグしよっか?」

 僕が言うと、アオは幼稚園の時のことを思い出すくらいの幼い子みたいな笑顔になった。それを見てたら、なぜか涙がグッと出てきた。一応、年頃の女性だからと僕も遠慮していたけど「ね、毎日、ハグしようよ」と恥ずかしいけど、言ったら、アオは嬉しいって言った。

「楽しいことをしたら楽しくない?」

「うん、すごい楽しい」

「アオは占いに興味があるんだから、勉強なんかどうでもよくって、占いの勉強をしたら楽しいじゃん」

「うん、そうだよね、でも勉強も、、、、負けず嫌いだから」

「でも負けず嫌いって勝負じゃん、人よりすごくなる必要ないよ、だって、アオちゃん、もうすでになんかとんでもないもん。人と比べる世界になんかいなくていいよ、テスト勉強なんかやめちゃえ」

「また、パパはすぐ極端なんだから、でも、それくらいの気持ちでいいかも。今日はもう寝るよ、明日、朝5時に起こして。それで社会のワークを一気にやるから手伝って」

「うんうん。おれさっと適当になんかうまくやるの得意だから、教えてあげるよ。そのまま寝ちゃったら嬉しい? 気持ちいい?」って聞いた。うんって言うから、僕はアオを仰向けに寝かせて、両足首を右手でつかみゆっくりと揺らした。こうすると、体全身が揺れて、脳みそも揺れて、気持ちいい。気持ちいい?って聞くと、うん、と言いながら、そのうちに寝てた。そのあとゲンも寝かせた。ゲンは「人生最高の親友が自分のパパだから、毎日一緒にいれるからむっちゃよかった」と言った。僕はまた泣きそうになってしまった。今回の長すぎて死ぬほど辛かった鬱が明けて、僕は心が完全に開いている。そして、今回の変化は、僕だけでなく、アオもゲンも開いているということだ。僕はフーに「これまで電話ででも、いろんな家族を見てきたけど、ここまで、心が一つ、になっている家族を僕は知らない」と伝えた。フーは僕の鬱の世話に疲れて、くたびれていてかわいそうだ。食べたいものが何かある?って言うと、僕たちが大好きなお菓子を作る、料理家の高山ゆかさんのかわいいアトリエで、お昼ご飯を食べたいって言うから、ゆかさんにすぐ電話して、ランチの予約をした。僕はこれから、知らない無数の人を助けるのではなく、目の前の家族を命懸けで助けようと思うし、死ぬほど腹から笑えるように遊ぼうと思う。遊びの仙人になりたい。

 この調子で日記を書いていたら、どこまでも終わらない。アオと朝から社会のワークを適当にやった。そして、僕は朝ごはんをアオに作ってあげた。卵焼きとお吸い物と昆布と白ごはん。美味しいって言ってくれた。そして、ヨガティーを淹れてあげた。そして、アオとアオの親友のナチャソの二人をカイエンの後部座席に乗せて、中学校まで送ってあげた。僕もよく、親父に学校まで車で送ってもらってた。親父は僕が少しでも遅刻しそうになると、入社遅れます、と電話をして、僕のことを優先してくれた。仕事なんか、あとでなんとでもなるから、適当でいい、という僕のこの精神は、親父ゆずりである。帰ってきたら、ゲンはもう小学校に行ってた。その後、熊本市現代美術館学芸員のまりちゃんと僕のアトリエで打ち合わせ。来年2月の個展までの700枚くらいの僕が3年間で描き続けてきたパステル画を一堂に集めようとしているが、現在200枚くらいかな、とのこと。まあ、焦らず少しずつやっていこう。来年の個展は、なんだか幸福な時間が訪れるんじゃないか、と僕は不安よりも安心感の方が強い。無理なことはせず、楽しいことをしたい。その後、加納さんのところに鍼治療に行くフーをまたカイエンで送り、僕は一人で野口周辺を散歩した。今日はやたらと用水路が目に入ったので、何枚か写真を撮った。写真もiPhoneでばっかり撮るんじゃなくて、CONTAXで撮影してもいいかもしれない。カメラを買いに行きたいと思った。

 帰ってきて、お昼ご飯はフーに生姜焼きを作ってあげた。フーは今は僕の鬱の世話で疲れが残っていて、少しかわいそう。これからはしばらく僕は元気だから、フーちゃんを癒してあげたいなと思う。で、午後3時になれば、ゲンが帰ってきた。僕は絵を描きたいと思ったけど、3時が近かったので、もう今日は描かなくていいやと思った。それでいいじゃん。ゲンとプレステ5で「it takes two」という僕たち二人が、全てのゲームの中で一番好きなゲームをもう何度目かってくらいだけど、これは対戦型ではなく、二人協力プレイで、ゲンは僕と決して対戦しようとしない。協力プレイがいいらしい。ターミネーター2を見てたら、ゲンはきっとジョンがゲンで、ターミネーターのシュワルツネッガーが僕という感じで見ていた。そしたら、ゲンは学校の友達の話をよくするようになった。もしかしたら、僕とゲンが親友であるということが、少しでも彼の心強さにつながって、友達を作ることも楽しく思えるようになっていたら、嬉しい。

 午後6時半から、いつもの通いの鮨屋「青柳」でmuseumスタッフみんなで一周年パーティー。お鮨をみんなにご馳走した。ゲンとアオももちろん参加。楽しい時間が流れた。帰り際、ゲンは、今日はカウンターで食べたわけじゃなく個室だったので、大将の村田さんに会えなかったので、村田さんに会いたいと言う、同時に村田さんもうちがお会計していると気づいたらしく、外に出てきていた。村田さんはゲンをハグしていて、この二人の関係がとても幸福そうに見えた。ゲンはもう何年もここのカウンターで大将に鮨を握ってもらっていて、ゲンは好きなものしか食べない人なので、いつもアラカルトで、赤身5貫天草の鯛5貫を注文する。その慣れた注文の感じに、僕はなんか感動するのであった。

 帰り際、ゲンが「僕は中学校に行きたいとは思わない、ホームスクーリングで、パパに習うことにする」と言った。まだ四年生なのに。そこで何をしたいかと二人で考えると、どう考えても二人協力プレイゲームを作りたい、となり、僕は熊本に住む、CGデザイナーの天才、立石くんにメールをした。すると、なんでも教えますよ、とすぐに返事、嬉しかった。it takes twoはunreal engineで作っているからblenderじゃなくてunreal engineを一緒に覚えないかとゲンに聞いたら喜んでいた。で、気づいたら寝てた。