坂口 恭平 エッセイ

飛行機的思考

飛行機に乗る時に本を買いたくなる。しかも、途中の新宿紀伊国屋とかじゃなくて羽田や成田空港にある書店で買いたくなる。そうすると種類もあまりなく欲しい本も無いはずなのにそれでも良くなる。その時だけは。というか僕は普段目的がないのにふらっと書店に行って立ち読みをする事はあっても、ふらっと本を買う事はない。買いたい本を買いにいく。しかし、飛行機に乗るときはそんなんじゃない。特に買いたいとは思っていないのに買え瞬なのである。それは一体どういう事なのだろう。

あの時、気持ちが軽くなる。それは旅行にいくという解放感が一番に作用しているのはある。っていうかそれかな。でもそれじゃ話が終わってしまうのでそれだけじゃないとする。

本を買う時、薄っぺらい560円とかの文庫本もいいが、僕は1200円とかのちょっと厚めの普段は本当に買わないのを、しかもあまり買った事がない作家の本を、それも何の悩みもないように、気持ちいいぐらいに、書店員まで気持ちよくなってしまうぐらいに、一点の曇りも無く、速攻で購入する。このときはカバーもつけてもらう。いつもは、カバーも袋もレシートもいらないというのに。そして、僕は普段買った本は買った後、帰りに歩いて読んでしまうが、それもこのときは我慢する。我慢できる。何となくおつりは財布に入れないような気がする。ズボンに突っ込む。なんか300円ぐらい屁でもないよという気分になっている。

そして書店を出る時の瞬間がきもちいい。本当に何なのだろう。あの時。太っ腹になっていて、人にちょっと優しくなっていて。

空港みたいな消毒されたような空間は「ケッ」とか思うのに、空港だけはそんなこと考えもしない。むしろ、
「綺麗すぎてもいいよ。」
と思っている。質感が必要なくなっている。
機内に座っていたら、横から入ってくる光に異常に敏感に反応する。
そして、「翼の王国」とか各航空会社の機内誌を読んでいるとき、
「本を読んでいる」
と実感できる。これ読んでいるときは眠くならない。
そしてヘッドフォンしたら絶対J-POPのチャンネルにする。
普段では耳に入れようともしないJ-POPがドンドン耳に入れる事ができる。
今回は渋さ知らずのメジャーデビュー曲とか入っていてビックリ。
石川啄木の詩に曲をつけていて泣きそうになる。
そして買ってきた本をゆっくり開ける。

と、その時思い出した。これはなんかのときに似ている。
そうだ、これは中学校や高校に新しく入ったときの新しいバックや文房具の匂いに似ている。
僕は全く神経質ではないのに神経質っぽくやりたくなる瞬間。
あれは儀式みたいだよなぁ。
それと正月のつめたくてシャキッとする気候にも似ている。

飛行機は「新しさ」を感じる事ができる空間なのか。
そういえば飛行機は富士山よりも高いところへ行くんだよな。それはとても崇高で凄い事なのに、頭の中では対した事が無いと思っている。
でも無意識では大昔と変わらないのかもしれない。

普段は読みもしない小説の文章が次から次に頭に入る。
教科書の折れ目。

0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-