坂口 恭平 エッセイ

フルメタルオバチャン

先日、中野ブロードウェイを抜けた細い商店街をぶらぶらと歩いていた。平日の昼間である。その日はとくに天気がよく、商店街は人もまばらで、僕は気持ちよく歩いていた。その時である。目の前から一台のロボットのようなものが向かってくるではないか。僕は落ち着いてよく考えてみた。ああ、あれは人間だ。オバチャンだ。電動車椅子に乗ってゆっくりこちらに走って来ているのだった。それにしても、オバチャンが装着しているシュワルツネッガーばりの蝶野ばりのサングラスは何なんだ。手に填めている銀色の手袋は金属製なのか。そんなことはないんだろうけど、やっぱりロボットと間違えるのも無理はない。昭和の匂い漂う古びた商店街を冬の太陽に照らされ自動的にゆっくり走るオバチャンの姿は異国の香りがした。

僕がヒッチハイクばかりしていた20歳ぐらいの時、ちょっとヤンキー風のお兄さんとかよく乗っけてくれた。中に入ると、すごい内装で、ふさふさの白い毛が下にビッチリ敷かれて、バックミラーからは紫ハイビスカスが垂れ下がり、靴は脱がされ、キティちゃんのスリッパに履き替えた。5枚連続演奏ができるらしいCDプレイヤーは宇宙船のような形していて、液晶画面もNASAみたいになっていた。そして、そこから流れていて、さっきから聞こえてくるのは浜崎あゆみだった。その時も同じように異国に来たかと思った。

この前銭湯に行った時には、普通はあの手でゴキゴキ回して自分がしたいところに人力で動かすマッサージ機がなく、代わりにナショナルかなんかの凄いマッサージ機が置いてあった。あの時もそう。

オバチャンオジちゃんそしてヤンキー風兄ちゃんの未来派にはなんというか見ている人を一瞬にして遠く彼方に飛ばすことのできる威力を持っていると思う。あの風景を見ていると、古いものは大事にしようとか、やっぱり綺麗で新しいものがいいとか、歴史が浅いものは信用できないとか、そういった古いもの、新しいものといった分けかたでは物事を考えられないのではと思う。もうそういう選択の時代じゃないのよ!とフルメタルオバチャンに言われそうである。

0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-