坂口 恭平 エッセイ

風呂桶ストラ

風呂に入っていると、なんであんなに歌いたくなるのか。ハミングでは済まされなくなってくるわけである。始めは僕の独唱。Aメロが二回続き、Bメロへ。その後、一拍置いてサビに入っていく。今日はいつになく曲が広がっていく。もう目は閉じてしまっている。独唱の後は、口サックスのソロ。即興のようである。そうこうしていると、風呂の水がチャプチャプいっているのが耳に入り、それも音楽となっていく。水際のアンサンブル。自分で横に揺れ、水の波を起こしている。波が十分立つと、水は自動的に揺れながら、音をたてる。というか音を「たてる」って「立てる」なんだっけ。それはいい言葉だなァと思いながらも、曲はもう、1番とか2番とかそういう次元ではなくなっていく、風呂桶をたたき、曲はダンスミュージックと化しているようだ。水の表面をチャピチャピ優しく叩くのも結構いい音するな。でも金属音も欲しい。水道蛇口をたまにアクセントで入れていく。もうだいぶ時間経ったよね。なんか風呂に入って寝てしまって起きた時の香りがする。気にせず、曲は終盤にむかっているようだ。もう、自分の目の前には、他に年配のミュージシャンが5、6人集まっている。狭い喫茶店みたいなところにいるようで、でも後ろには弦楽オーケストラの黒服も見える。ナチュラルカラオケ。ナチュラルオペラ。ここは国際フォーラムか。いや、パリのBATALANDかな。そういえばあそこでデビット・バーン見たなと思っていたら、なんか体が冷えてきた。昔、チャリ通だったころ、30分ぐらいの距離だったがこの30分がハミングオーケストラ人間にとっては最高の時間だった。

ああいう音を録音してみたいなと思った。

0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-